1912年〜2000年。中国山西省生まれ。日本の故大平ら首相は1979年訪中の際、緊張の連続から極度の不眠と疲労を訴えたが、当時西安赤十字病院の鍼灸科医師だった馬先生のわずか20分の点穴治療により、深い眠りにつくことができた。20年あまりの臨床を通じて確立されたその手法は、『点穴療法』として、1978年陝西省科学技術出版社より発表され、その後版を重ねており、医療関係者はもちろん、家庭でもできる安全で優しい「ハリを使わないハリ治療」としても好評を博している。

馬秀棠先生と馬氏点穴療法

 馬先生は1912年中囲山西省生まれ。馬先生の叔父はその地の中医であり、鍼灸と漢方の名人として知られており、刺緒の絶妙なテクニックは特に馬先生に深い印象を与えた。

 1941年、馬先生は王新年先生の門下に入り、太極拳、気功などを修得した。王先生は当時、西安市でもっとも有名な中医であり、武術家でもあった。1947手には王先生の推薦により、李少亭先生の弟子となり、金針手法の秘伝を受けた。李先生は当時、中国の西北地方の著名な針医であり、「金針李」と呼ばれていた。

 ふたりの素晴らしい先生から秘伝を体得し、また長い修行の結果、馬先生は針灸、刺絡を極め、気功、太極拳にも通じるようになった。そして馬先生は多くの患者を助けるようになる。だが同時に、馬先生自身も気功によって助けられたのである。

 馬先生は30歳まで非常に体が弱かった。西安で店員として働いていた頃は、仕手が終わると疲れてそのまま早く床に就いたものだった。当時、夜遅くまで遊んでいた仲間たちには「長生きできないに違いない」と言われたという。馬先生が風邪も引かぬ体になったのは、30歳で練習しはじめた太極拳のおかげだった。

 だが、赤十字病院に勤務し始めた頃から、仕事が多忙を極めたこともあり、練習を怠るようになつた。そしてついに1959年、馬先生は肝炎を患ってしまう。病院で3年間治療を受けたものの、症状は一向に快方に向かわない。病状はかえって悪化し、最後はもう治療法はないと宣告されてしまう。

 そして馬先生は王新午先生から教えられた気功のことを思い出す。どこに行っても必ず朝5時に起き、−時間ほど気功の練習をした。2年後の1964手、再検査を受けると、体は完璧な状態に戻っていたという。そしてそれ以来30年、馬先生は練功を続けてきた。

 ある養生名人の残した、こんな言葉がある。

「死不忘者、寿也(死を忘れない者は長寿となる) 

 1956年まで、馬先生は主に針を用いて治療を行なっていた。針は多くの病気治療に有効だが、誰にでも使えるというものではない。患者の症状が軽く、針で簡単に治せる場合でも、患者本人が針に対して恐体感を抱いていれば、治療はできない。馬先生はそのような事態を多く経験したし、老人や幼児には針を使えないことが多かった。そして馬先生は針のかわりに指を使う治療法を考え出した。

 最初に考え出されたのは平揉法と圧放法である。平揉法は指をツポに当てて回す。これは針の「捻転」(ねんてん)に対応するものだ。圧放法は指をツボに当てて上下に動かす。こちらは針の「提挿」(ていそう)に対応している。

 また、自分の長年の気功太極拳修練の体得も点穴の手法としてまとめ、治療に応用した。

 さらに、有効な民間療法も点穴療法に融合し、独自の点穴療法を築き上げた。

 馬先生は自分自身と家族を患者と見立ててその効果を確認した後、1956年、病院での治療に取り入れた。 それから数十年にわたって、馬氏点穴療法を発展して確立させた。著書の『点穴療法』は中国国内に数十万冊が発売されたほか、スペイン語、日本語に翻訳され、香港では点字版も出版された。

点穴療法とは

「点穴(てんけつ)は日本ではまだ慣れていない言葉だが、中国ではこの言葉を知らない人がいないだろう。点穴とは、もともと中国武術のなかによく使われている用語で、「点」は指で突くことで、「穴」は「ツボ」のことである。すなわち、指で相手の急所(ツボ)を突くことによって、相手を制服する方法であり、中国武術の最高の秘技の一つである。

上述のような相手を制服する方法は「殺法」という。そのほかに、相手を生かす方法もあり、それは「活法」という。この活法を医療に使うと、点穴療法となる。ただし、馬氏点穴療法は武術からきた方法ではない

  馬氏点穴療法は薬物や道具を使わず、ただ施術者の手を患者の体表のツポに当て、一定の手法の操作により、病気を治す療法と定義されている。もちろん、すべての手技療法はこのように定義できるが、馬氏点穴療法は、力を使わずに、意識を使う「用意不用力」と呼ばれる方法を用いている。指圧のように力強く圧す方法ではない。羽のように軽くツポに触れる。そのため、特別の腕力の訓練や気功の修行がしなくても、方法さえ習得すれば、有効な治療ができるわけである。

 なぜなら、人間の自然治癒力は、「気」の流れる「経絡」というネットワークにあり、経絡の中の気の流れが調節すれば、体のバランスを整え、病気を治療することができる。要するに、東洋医学の手技療法は、気の流れを調整することにより、体の自然回復力を目覚ますものであり、決して力の勝負ではないのである。
 鍼灸は、針や灸を利用して経路の気の流れを調節し、病気を治す。馬氏点穴療法は手の指先を使い、平接、圧放、点打などのテクニックにより患者のツポに働き、気の運行を調節し、余りを取り除き、不足を補うことによって疾病を治し、健康を回復させる。
 

文献:馬先生の点穴療法

〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 

馬秀棠(ま・しゅうとう)